相続発生までの時間が限られた時の相続対策
相続・不動産担当のエフピーコンパスの平井です。
前回、前々回の相続・不動産のブログの中で、ファイナンシャル・プランナーとして相続に携わっていく中で、時間軸を考えて、対応することが大切なことを整理させていただきました。
もう一度整理すると、大きく分けると、以下の4つの時期に分類することができます。
① 相続まで時間がある。
② 相続発生まで数年(高齢である、病気等が見つかった)
③ 相続発生してからの手続き
④ 相続税申告後
今回は、②の相続発生まで数年(高齢である、病気等が見つかった)など時間が限られている場合の相続対策についてのお話しです。
本当は、ゆっくり時間をかけて家族の中で相続について話し合い、方向性を決めて、対策を行っていく事がリスクも少なく大切なのですが、「自分は元気で大丈夫である」「相続はまだまだ先の話である」と思っていて、相続対策を考えてこなかったりする人がほとんどです。身近な人が亡くなったり、高齢になったり、健康診断で病気が見つかったり、介護施設に入居したりと、身の回りの状況が変わると、新聞や雑誌等の記事が気になって、相続について急に心配になる人が多いのが実情です。相続発生までの時間が限られているときは、時間を活かすことが出来きませんので、出来ればすぐに効果の出る対策を検討することが必要になります。
円満な相続を実現するためには、この時期からの相続対策の場合でも、しっかり相続の方向性を示しておくことが重要です。先祖代々から受け継いだ、田んぼや畑、山林を誰に遺したいのか、自宅には誰が住むのか、お金と異なり、不動産は分けることが難しい財産ですので、誰の名義にするのか、納税資金は不足しないか、遺産分割がスムーズに行えるのか等、相続対策を行った場合のメリット・デメリットはないのか、という事を、限られた時間の中で検討して実行をお手伝いする必要があります。
相続対策の中で大きな節税効果の大きい対策の一つが不動産の有効活用による対策です。ただし、相続発生までの時間が限られている場合は、「すぐに効果の出る対策」を考える必要があります。大きな節税効果があるからといっても、アパート・マンションの建築など不動産の有効活用を一から始める場合、境界の確定、権利関係の整理、どんな有効活用を行うのか、開発許可、確認申請、造成工事、建築工事、入居管理等、始めると決めても、実際に効果がでてくるには、半年から一年近くかかります。その間に相続が発生してしまうと、有効活用による相続の節税効果が発揮できないことになってしまいますので、時間が限られているときには、別の考え方を検討する必要があります。
相続発生までの時間が限られている場合は、中古の不動産を購入する、不動産を組み換えるなど、直ぐに効果のある対策を打つ必要があります。といっても、節税効果だけを考えて高層マンションの一室を購入することはあまりお勧めしません。その後の管理や、売却等のリスクを含めて考えて、相談者の方にとってベストな対策を考えることが必要です。
すぐに効果の出る対策の一つが養子縁組です。例えば法定相続人でない、長男の嫁や、孫と養子縁組をすることが考えられます。養子縁組を行う事で、相続人が一人増えますので、基礎控除の拡大や相続税の引き下げ効果があります。ただし、家族の中できちんと話をしておかないと、相続が起こってから、きょうだいが養子縁組の事実を知り、話が前にすすまなくなり、なかなか遺産分割がまとまらないケースもありますので、注意が必要です。
養子縁組については、家族の中で十分に考えた上で実行することが大切です。養子縁組による相続対策は、すぐに効果が出る対策ですが、活用に際しては、他の相続人や家族の立場も考えて、しっかりメリット・デメリットを伝えてください。
生命保険を活用することも効果があります。生命保険の非課税枠を活用出来ていない場合は、一時払い終身保険を活用する方法があります。保険会社によって加入できる告知内容が異なりますが、90歳近くまで加入できる保険会社もありますので、対策の一つとしてしっておきましょう。ただ、この場合は保険という機能というよりも、預貯金を死亡保険金として相続時に受け取ることが目的になりますので、きちんと理解していただいて、必要な場合には、活用いただければと思います。また、高齢になり健康状況が芳しくない時には、相続人等を被保険者として保険に加入したりと、契約者、被保険者、死亡保険金受取人の名義を検討して、必要な生命保険に加入する事も考えられますので、目的を明確にして対策を考えてください。
他にも、遺言書の作成や贈与の活用、自社株の評価の引き下げ、物納・延納の検討等、直ぐに効果のでる相続対策はいろいろ考えられます。ファイナンシャル・プランナーとして、お客様にとってベストな対策を一緒に考えていきましょう。
節税だけを考える事も問題があります。例えば高齢の方であれば、相続対策について話をして、ご本人に心配をさせるよりも、相続が発生してからの手続きがスムーズにいくことを目的として、最低限必要な事だけを行うなど、そのご家族に会った形の対策を提案することが大切です。ファイナンシャル・プランナー自身の思い込みや価値観で判断するのではなく、きちんと相談者の方、関係する相続人のお話をよく聞いて、ベストな方法を提案していきましょう。その時にも、やはり、この時間軸の観点を忘れないでください。
ファイナンシャル・プランナーとして相続対策を考える時には、税金を安くする方法だけを考えるのではなく、次の世代にどのような財産を引き継がせるのか、目に見える財産だけでなく、考え方や想い、生き方など、両親やご先祖様の歴史を伝えておくことを伝えることも大切です。どうしても専門家になってしまうと、自分の専門分野だけの話になりますが、ファイナンシャル・プランナーとしてお客様の横に座って、目に見える財産以外の、目に見えない財産の大切さについても、エンディングノートを活用したり、家族会議のお手伝いをすることで、限られた時間の中で伝えていきましょう。
本当に大切なことは、節税する事ではなく、家族の想いをつないで円満な相続とする事です。
前回もお話ししましたが、相続対策として大切なことは、この相続までの時間についてきちんと理解し、お客様がお元気な時に対策を始める事です。
今までお話ししてきた相続対策も、ご本人の意思能力・判断能力がなければ活用することが出来ません。相続までの時間に限りがある中で、本当に行うべきことは何か、特に目に見えない相続財産について、考えていただくことがファイナンシャル・プランナーとしての一つの役割ではないかと、相続の経験を積む中で、最近思ってきています。
ファイナンシャル・プランナーとして、相談や実務を行う中で、自分の引き出しを増やし、お客様にとって必要なネットワークを更に広げていきましょう。