相続開始から3年以内に登記しないと10万円の過料!
相続・不動産担当のエフピーコンパスの平井です。
新聞に「土地登記は3年以内に、違反なら過料」と載っていました。
もう少し詳しく調べようと思い、法務省のHPより法制審議会民法・不動産登記法部会おいて決定した「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱(案)」を確認してみました。
この要綱(案)については、3月に改正案を閣議決定して、国会で成立後、2023年度に施行する予定になっています。
現在、相続が発生しても登記は義務ではないために、そのままにしている人もたくさんおられます。特に山林や農地等、土地の価格が安かったり、手続が面倒くさいということで、名義変更をしないで放っておく方が費用もかからないので、何もしないという方も多く、土地所有者不明の土地が増えています。このため、公共事業の実施や民間取引にあたって、取引の相手方が不明であったり、所有者を探すための時間と費用がかかったり、管理が不十分のため近隣に迷惑をかけたりと、多くの問題が発生しています。
という事で、今回、民法と不動産登記法の改正について、法制審議会において、要綱がまとめられました。要綱(案)を大きく分けると、「民法等の見直し」「不動産登記法等の見直し」の二つになります。その中の気になるポイントを二つ整理してみました。
改正案では、所有権の登記名義人が死亡した場合における登記の申請が義務付けられます。相続の開始があったときは、相続により、不動産の所有権を取得した者は、取得を知ってから3年以内に、所有権移転の登記を申請しなければならなくなります。(遺贈により所有権を取得した者も同様です)
申請をすべき義務のある者が正当な理由がなく、その申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処せられます。
また、所有権の登記名義人の氏名や名称又は住所について変更があったときは、その登記名義人は、変更から2年以内に、氏名若しくは名称又は住所について変更の登記を申請しなければなりません。
申請すべき義務があるものが正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、5万円以下の過料を支払わなければなりません。
他にも、所有者不明土地の発生を抑制する方策の一つとして、土地の所有権を放棄しやすくするための、土地所有権の国庫への帰属の承認等に関する制度が創設されます。
土地の所有者(相続又は遺贈によりその土地の所有権の全部又は一部を取得した者に限る)は、法務大臣に対し、その土地の所有権を国庫に帰属させることについての承認を求めることができます。
承認申請者は、承認審査に対する審査に要する実費の額を考慮して政令で定める額の手数料を支払わなければならないとなっています。
また、承認申請者は、承認があった時は、承認に係る土地につき、国有地の種目ごとにその管理に要する10年分の標準的な費用の額を勘案して政令で定めるところにより算定した額(負担金)を納付しなければなりません。
ただし、どんな土地でも手数料を支払えば、国庫に帰属する事ができるわけではありません。
要綱(案)には、以下のとおりの記載があります。
法務大臣は、承認申請に係る土地が次のいずれにも該当しないと認めるときは、その土地所有権の国庫への帰属について承認しなければならない。
① 建物の存する土地
② 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
③ 通路その他の他人による使用が予定されている土地として政令で定めるものが含まれる土地
④ 土壌汚染対策法第2条第1項に規定する特定有害物質(法務省令で定める基準を超えるものに限る)により汚染されている土地
⑤ 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地
⑥ 崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限る。)がある土地のうち、その通常の管理に当たりか分の費用又は労力を要するもの
⑦ 土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
⑧ 除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
⑨ 隣接する土地の所有者とその他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるもの
⑩ ①から⑨までに掲げる土地のほか、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令でさだめるもの
ということで、国庫への帰属が出来る制度はできますが、利用をするには、費用の面も含めて、結構ハードルは厳しいかも知れません。
要綱(案)には、遺産分割の期間制限や民法の共有制度や財産管理制度の見直し、民法の相隣関係の見直し等についても、改正案が載っていますので、確認いただければと思います。
投資・資産形成の基本は「収益性」「安全性」「流動性」の3つの要素に優れた資産で運用することです。不動産を一つの資産として考えてみましょう。
「収益性」については、インカム・ゲイン(賃料収入)とキャピタル・ゲイン(値上げ益)によって成り立ちます。不動産は金融資産と異なり個別性が高いので、山林や農地、田舎の土地、道路に面していない土地等については、収益性を見込むことは難しい資産と考えられます。
「安全性」については、不動産自体を利用する事が出来、不動産登記によることで、比較的安全性の高い土地と考えられています。今回の改正(案)では、相続による不動産登記が義務付けられましたので、今後、所有者不明の土地は減少するかと思います。
「流動性」については、不動産を処分しようと思っても、直ぐに売却できることはなく、不動産業者に手数料を支払う必要があります。特に山林や農地、田舎の土地等については、各種法令の整理に時間がかかったり、買主が見つからない場合も多くあります。今回、国庫への帰属の制度ができる予定ですが、承認の条件が厳しかったり、利用するには相当の費用が必要になりますので、制度をよく理解しておく必要があります。
ということで、これまでのように、単に不動産を保有しているから安心という時代でなく、各不動産を精査して、遺しておく土地、利用する土地、処分もやむを得ない土地に分類をしていく事が大切です。ただし、実際には処分をしようと思っても、売却できない土地も多いですので、どう処理をしていくのかについても考えていかねばなりません。
相続において、不動産については必ず名義を決める必要がありますので、相続と不動産に強いファインナンシャル・プランナーとして、お客様の財産を把握、色分けを行って、誰の名義にして将来どのような形で利用していくのかを考えていきましょう。
ファイナンシャル・プランナーとして、今回の要綱(案)を理解して、お客様の所有されている資産をどのような形で次の世代に引き継いでいくのか、お客様の価値観を含めてきちんと考えていただくアドバイスが必要な時代になってきます。
ファイナンシャル・プランナーとして、相談や実務を行う中で、自分の引き出しを増やし、お客様にとって必要なネットワークを更に広げていきましょう。