財産があるから相続放棄
相続・不動産担当のエフピーコンパスの平井です。
相続した時に借金がある場合、3カ月以内に相続放棄をすることを検討しましょうという事をファイナンシャル・プランナーとして学んでいますね。
今回、借金があるから相続放棄ではなく、「財産があるから相続放棄」のお手伝いをさせていただきました。このブログでは考え方について学んでいただきたいと思っていますので、設定の人物像、所有資産等については、仮定の数字を用いています。
ご主人を先に亡くされた80代の奥さまと、長男さんからの相談です。独身で子供さんのいない次男さんが、50代で病気を患い亡くなられたので、相談に来られました。
本来であれば、年齢を考えると、母親が先に亡くなり、その後、子供さんが亡くなることが一般的ですが、今回は、先に息子さんを亡くしてしまった悲しい事例です。
奥さまと長男さんにお会いしてお話をお聞きしたのですが、生前、次男さんは、長男さんの子供(甥っ子、姪っ子)に財産を遺してあげたいと常にお話されていたようです。ご自分の病気の事も知っており、せっかくこれまで貯めてきた自分のお金なので、出来れば相続税を少なくする方法がないのか、生前から気にされていたとの事です。
次男さんが亡くなる前であれば、遺言等を活用することで、甥っ子、姪っ子に財産を遺す事も出来るのですが、若くして急に亡くなってしまったために、対策を打てませんでした。
次男さんの相続人は、お母様お一人になります。亡くなられた次男さんの保有財産は、お母さんと同居していましたので、所有不動産はなし。現預金、金融資産で約6,000万円です。
お話を聞く中で、お母様の将来のご相続についても、いろいろとお話を聞かせていただきました。ご自宅と、もう一つ不動産を所有されており、現預金、有価証券等(約5,000万円)を含めると、約1億円の財産を所有されています。
今回亡くなられた次男さんの財産6,000万円で、法定相続人が一人の時の相続税は
6,000万円‐(3,000万円+600万円×1人)=2,400万円
2,400万円×15%‐50万円=310万円になります。
お母様が保有されている財産だけで相続税を計算すると
1億円‐(3,000万円+600万円×1人)=6,400万円
6,400万円×30%‐700万円=1,220万円になります。
今回次男さんの相続が発生し、お母様が次男さんの6,000万円の財産を相続すると(相続税等を考慮して5,500万円が増加したと仮定)
お母さんの財産が1億5,500万円になります。法定相続人が一人の場合の相続税は
1億5,500万円‐(3,000万円+600万円×1人)=1億1,900万円
1億1,900万円×40%‐1,700万円=3,060万円になります。
相続税率が30%~40%のラインになりますので、5,500万円の財産が増えると、1,840万円の相続税負担が増えることになります。
今回、税理士の先生にも相談して、シュミレーションした結果、お母様が相続放棄をすることで、長男さんが相続人となり、お母様が将来納税する相続税を節税する事が出来ました。ファイナンシャル・プランナーとしては、相談者からの相談内容や税金の事だけをお話するのではなく、相談者の方が本当に行いたいことが何か、次に発生する可能性がある相続対策についても考えた上で、お客様にお伝えしなければなりません。
相続放棄をする事で、デメリットもあります。
相続人が、母親からきょうだいに変わることで、相続税の2割加算の対象になります。
生命保険金や死亡保険金の非課税枠が使えなくなります。
こういったデメリットについても、相談者の方にしっかりお伝えし、理解していただいた上で、相続放棄の手続きをしていただくことになります。
相続の放棄の申述についても、少し整理をしておきます。
相続人が被相続人の権利や義務を一切受け継がないことを相続放棄と言います。
相続放棄の申述は、民法により自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に家庭裁判所に提出しなければなりません。
必要な書類は、
故人の戸籍謄本
故人の住民票又は戸籍の附票
相続放棄をする人の戸籍謄本
相続放棄申述書
収入印紙800円
になります。
申述書の書き方については、法務省のHPに載っており、申述書の理由の欄には、「放棄の理由」を記入する事になっています。
1 被相続人から生前に贈与を受けている
2 生活が安定している
3 遺産が少ない
4 遺産を分散させたくない
5 債務超過のため
6 その他
の6項目の中から当てはまる番号を〇で囲み、相続財産の概略を記入して、申述を行う事になります。
今回は、生活が安定しているという2番を〇で囲み、申述書を提出いたしました。特に生活が安定していることを示す書類等は必要ありません。
相続放棄の手続きは、それほど難しいものではありませんが、一旦相続放棄を行うと遺産を一切受け取ることが出来なくなりますので、お客様の考え方、想い、実際に保有されている財産、二次相続の税金、贈与等の相続対策等ついて、多方面から考えて、対応する事が大切になります。
「相続放棄」と言われると、借金等のマイナスの財産が大きい場合だけだと思いがちですが、今回のような、亡くなられた次男さん、次に相続税の支払いの必要なお母さんの二つの相続について考えた上で、財産があるから相続放棄を行う事も考えてみてください。
今回、相続放棄の手続きを行う事で、二時相続を含めた全体で支払う税金を少なくすることが出来ました。更に、相談者のお母さんの今後のライフプランとキャッシュフロー表を検討した上で、生命保険への加入、孫への贈与などの対策を並行して行っていく事が大切です。今回は、お母様の生活が困らない程度で、孫(次男さんの甥っ子、姪っ子)に贈与を行い、状況に応じて、長男さんが相続した財産を子供(次男さんから甥っ子、姪っ子)に贈与を行うことや、長男さんの相続対策も時間を掛けて行う必要がある事を提案させていただきました。
ファイナンシャル・プランナーとして、相談者の方の本当の想いを聞いて、問題点や解決の方法を提案し、その実現を実行援助する事が大切です。今回のお客様は、亡くなられた次男さんの生前の想いを実現させ、トータルで支払う相続税を抑えることが出来ました。
ファイナンシャル・プランナーは、ご自分の価値観で判断するのではなく、相談者の方が何を大切にしているのかを理解して、提案いただければと思います。
これからは、ファイナンシャル・プランナーとして、お客様の所有されている資産をどのような形で次の世代に引き継いでいくのか、お客様の価値観を含めてきちんと考えていただくアドバイスができる能力が大切です。
ファイナンシャル・プランナーとして、相談や実務を行う中で、自分の引き出しを増やし、お客様にとって必要なネットワークを更に広げていきましょう。